科学の広場

生物の進化、絶滅 動物保護考えて

 今年の干支(えと)は「トラ」です。干支というと、ネズミにだまされて十二支に入れなかったネコのお話が有名ですが、皆さんはトラがネコの仲間であることを知っていますか?

 トラはネコ科ヒョウ属に分類されている動物です。私たちがよく見るネコの何倍も大きく、体長2〜3メートルにもなります。アジアの森林に生息し、北は雪の降る中国北東部、南は赤道近くのインドネシアまで、とても広い範囲にいます。地域によって体の大きさや毛の長さなどに違いが見られ、8つの亜種に分けられています。トラもネコも祖先は同じですが、「進化」の中で、別の動物へと分かれました。今から150年前、「種の起源」という本を書いたチャールズ・ダーウィンは、生物は姿や特徴が少しずつ変化していき、周りの環境に適応できたものが生き残ることで進化が起きたと考えました。


縞模様の体毛によって植物やその影に紛れ、
他の動物に気付かれにくくなっているトラ

 

 では、トラはどのように進化してきたのでしょうか?

 ヒョウ属共通の祖先は、今から510万年〜170万年前の「鮮新世(せんしんせい)」に登場したと考えられています。同じ時期に最も栄えていたネコ科の動物は、大きな犬歯(牙)を持つサーベルタイガーの一種、「スミロドン」でした。スミロドンは体が大きく、力も強かったのですが、新しく現れたヒョウ属のような素早い動きはできませんでした。そのため、氷河期に足の遅い大型の草食動物が激減すると、獲物を捕らえられなくなり、絶滅してしまいました。ヒョウ属の祖先は、氷河期の環境にも適応し、生き残ることができたのです。

 その後、ヒョウ属の祖先は進化の中で、「ヒョウ」、「ジャガー」、「トラ」、「ライオン」に分かれ、それぞれの特徴的な体毛も、生息する場所に適したものになったと考えられています。森に生息するトラは、縞(しま)模様の体毛によって植物やその影に紛れ、他の動物に気付かれにくくなっています。



「ようこそ!ダーウィンの部屋へ」で展示している
ダーウィンロボット

 

 狩りの時にはこの特徴を生かして、草木の間に隠れながら少しずつ獲物に近づき、20メートルぐらいまで忍び寄ります。その後、素早く跳び掛かり、強い力を持つ前足で獲物の体を押さえると、首にかみついて仕留めます。

 トラが進化の過程で手に入れたのは縞模様だけではありません。基本的にネコ科の動物は、水で体がぬれることをとても嫌い、乾燥した場所を好みます。しかし、トラの場合は、獲物を池や川などに追い込んで捕えたり、暑い時には泳いだりするなど、水を積極的に利用します。湿度が高く、水辺も多いアジアの森林に適応したことで、他のネコ科とは違った特徴を持つようになったようです。

 トラは、19世紀には8亜種合わせて10万頭以上も居たようですが、20世紀になると、人間による乱獲や生息環境の破壊によって激減し、現在では全世界で4000頭ほどしか残っていません。すでに3亜種が絶滅し、残る5亜種も、数が減り続けていて、絶滅の恐れがあるのです。

 近年、トラだけでなく、様々な動物や植物が絶滅危惧(きぐ)種になっています。科学館では1月17日まで、スペースパーク企画展「ようこそ!ダーウィンの部屋へ」を開催中です。生物の進化や絶滅に関する展示をご覧になって、自然やそこに住む動物たちの保護について、ぜひ考えてみてください。

 
(郡山市ふれあい科学館 事業課 渡辺 正和)

2010年1月7日 福島民報新聞 情報ナビ[たいむ] 「スペースパーク便り」より