明るさ変わる「おじいさん星

2002/11/01


 

 秋の夜空は明るい星が少なくて、目立つ星座も多くありません。そんな時は、星図を頼りに無名の星座を探してみるのも面白いものです。この時期の夜八時ごろ、南東の空低くに見えるくじら座も、そんな星座の一つです。神話では化け物として登場するこのくじら、空では東側の頭から南側へ長く伸びる胴体が星座として見えています。


10月29日午後8時ごろのくじら座付近の星空

 くじらの胸の辺りに、ミラという星があります。ミラとはラテン語で「不思議な」という意味です。この星のどこが不思議かといえば、見る時によって明るさが違うところです。肉眼で見えるときもあれば、望遠鏡がないと見えないほど暗いときもあります。ミラは、三百日以上の長い周期で、明るい二等星から暗い十等星にまで変わってしまうのです。
 このように明るさの変わる星を変光星といいます。星が変光する原因はいくつかありますが、ミラの場合、星そのものが大きさを変えるために明るさが変わって見えます。


 恒星と呼ばれる星たちの輝きも、永遠に続くわけではありません。星の輝きにも生命と同じように始まりと終わりがあります。ミラは輝きが終わりかけた星で、人間でいえばかなりのお年寄りです。
 星は年をとると膨らんでいきますが、そのうち膨らんだり縮んだりを繰り返すようになります。人間も年をとると足元が不安定になるのに似ているかも知れません。ミラもこうして大きさが変わり、明るさも変わるのです。
 ミラのような変光星は、これからどうなっていくのでしょうか?星がもっと膨らむと、そのうち外側の部分だけが星から離れていってしまいます。星から離れた部分はさらに外へと広がり、中心には本体の星が取り残されます。こと座にあるリング星雲は、こうして星から離れた部分が光っている星雲の一つです。ミラもいつかは、このような美しい星雲に変わっていくのでしょう。一方で本体の星はだんだん冷えて暗くなり、こうして星の一生が終わります。


リング星雲(NASA提供)

 

 この秋、ミラは暗くなるところなので、見つけるのは難しいかも知れません。でも、もし見かけることがあったら、星のお年寄りの姿を想像してみて下さい。そして、星にも一生があるのだということを思い出して下さいね。 

(展示担当 石原 裕子)

2002年10月29日 読売新聞福島版 「星のある風景」より